大人の教養-バレエ・絵画・映画

ドリームはウィットに富んだ会話がおしゃれな映画

NASAの宇宙開発プロジェクトに関わった黒人女性の物語。

研究者として優秀であるだけでなく、卓越したコミュニケーション能力で職域を広げていく彼女たちのサクセスストーリーが痛快です!

タイトルが「ドリーム」とちょいダサなのですが、いい意味で裏切られる映画です。おすすめ!

ドリームのあらすじ

1960年代初頭、旧ソ連との熾烈な宇宙開発競争での劣勢を覆すため、「宇宙飛行士ジョン・グレンを宇宙空間に送り出し無事に帰還させる」という合衆国の威信をかけた一大事業に尽力し、NASAの頭脳として最も重要な役割を担った3人の女性、キャサリン・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン)、ドロシー・ヴォ―ン(オクタヴィア・スペンサー)、メアリー・ジャクソン(ジャネール・モネイ)。大きな功績を残しながらも近年までほとんど語られなかった驚くべきこの3人の先駆者たちの物語は、性別や人種、世代を超え、すべての世代を大きな夢へと導いた感動の実話です。

引用:Filmarks 映画

人種差別・女性差別を扱った内容ですが、わかりやすい侮辱の言葉や暴力はありません。むしろ、差別している側が「自分は差別主義者だ」と自覚するなんてことは、いつの時代もないんだなと思いました。ある意味怖い。

登場人物は皆、NASAで宇宙開発に携わっているくらいですから、教養高く、振る舞いも上品。それなのに当たり前のように差別をし、差別していることに自覚のない姿がコワイ…と心がひんやりとしました。

「仕方のないことでしょ」「ありがたいと思いなさい」「前例がない」

そんな言葉が作中に何度もでてきますが、それは不便や不足を強いられていない側だからでてくる言葉であり、それで「差別していない」ってちょっとちょっと!それ、あなた自分が同じ立場でもいえますか?って話ですよね。

↑職場から800m離れた別棟にある黒人用トイレを使うために、資料を抱えながら毎日毎日走ってトイレに通うキャサリン。

トイレや図書館、仕事場所、受けられる教育など【白人用】【黒人用】に分かれています。さらに【白人用】と【黒人用】では清潔さや設備にあきらかに差があります。

私たちからみたら「いやいや。差別しているでしょ」と思いますが、当時は「分離すれども平等」という価値観がまかり通っていたので、本人たちは差別している意識はない(らしい)のです。

ネタバレになるので詳しくは書けませんが、とくにトイレのくだりは現代の私たちにも同じことがいえて、LGBTQのトイレ問題なんかはそのまんま当てはまるなと思ってみていました。

三上みひろ

同年代の黒人差別をテーマにしてる映画には『グリーンブック』『グローリー -明日への行進-』『大統領の執事の涙』 がありますよ。とくに『グリーンブック』はおすすめ。

公民権運動が高まり、ジム・クロウ法(黒人の一般公共施設の利用を禁止、制限した法律の総称)の裁判闘争が盛んに行われていた時期です。

ドリームの感想

1960年台、ロシアとの宇宙開発宇競争の真っ只中にいるNASAで大活躍した3人の女性たちの実話をもとにした伝記映画です。ただし史実との相違点も多くあるので、あくまでもフィクションです!

写真左:ドロシー・ヴォーン

西計算グループ(優秀な頭脳を持つ黒人女性たちが計算手として働いているチーム)のリーダー。管理職相当の役割を担っているにも関わらず、「黒人グループには管理職を置かない決まりになっている」と昇進がかなわない。

写真中央:キャサリン・G・ジョンソン

黒人女性としてはじめて宇宙特別研究本部に配属される。

写真右:メアリー・ジャクソン

メアリーは数学と物理学で学士号をもっており、エンジニアを志している。技術部への転属が決まり、上司からもエンジニアとしての資質を認められ「エンジニア養成プログラムに空きがある。エンジニアにならないか?」とチャンスをもらう。

しかし、NASAの就業規則でエンジニアになるには大学(白人のみ入学可能)でアドバンスコースを受講する必要があり、黒人であるメアリーは入学を断られる。

映画のストーリーは、王道のサスセスストーリーであり、ハッピーエンドはわかっているのでありきたりといえばありきたりなはなし。でも、とにかくセリフのセンスが抜群にいいんですよー!

ポジティブでウィットに富んだ会話があちらこちらに散りばめられているのだけど、どれもまったくサムくない。

素直に「うぐぐぐ…かっこいい。格好良すぎる(>_<)」と唸ってしまいました。

例えば、主人公のひとりキャサリン(キャサリンは夫と死別している)とリーバイ・ジャクソン(キャサリンに好意を持っている)の出会いの場面。

ジャクソンが「NASAで何の仕事をしているの?」と質問し、その質問にキャサリンが答えたあとの会話がいいんですよね。笑

ジャ「それは大変だ。女にやらせるなんて」

キャ(怪訝な顔)

ジャ「…あ…そういう意味じゃなくて…(あたふた)」

キャ「それ以上、余計なこと言わない方がいいわね」

ジャ「バカにするつもりはなくて…」

キャ「NASAにはたくさんの女性が働いているわ。でもスカートをはいているからじゃない。メガネをかけているからよ。ごきげんよう」

…カッコいい!!!!

こんなカッコいいセリフ、さらっとでてきます?

知性溢れすぎでしょう!!格好よすぎる!!!

こんなオシャレな返しができる人間になりたいですよ。とにかくカッコいい。

私が同じ状況なら(うわーこの人、女性を下にみてくるタイプか。無難にやり過ごしちゃおっと…くわばらくわばら)と思って、さっさと会話を切り上げて終わっちゃいますもん。

相手に気付きを与えつつ、相手のメンツも潰さない。そんな返しができるようになりたいですわ。

他にもたくさん名シーンがあるんですが、ネタバレになってしまうので控えます。笑

次から次へとカッコいいセリフのオンパレードで、なのにまったく寒くないんですよね。

これもすごいことだと思いませんか?

私、とつぜんカッコいいこと言い出すキャラクターが苦手なのですよ。

哲学的な言葉をぶっ込んできたりとか。「あなた誰だよ?」ってさめちゃう。

でも彼女たちの言葉はまったく寒くないどころか、胸にジーンと響いてくる。

で、それは自分の言葉として語っているように感じられるからだと思いました。

そのカッコいいセリフを言うに相応しい人間、そういう言葉がでてきて当然の人間として描かれていて、キャラクターに説得力があるということです。

例えば、メアリーは上司の推薦もあって、エンジニア養成プログラムへの参加を申し込むものの、就業規則とやらを理由に断られます。

さらにもし参加したいのであれば「バージニア大学の上級公開講座」もしくは「ハンプトン高校の上級講座」を受講するように言われます。

メアリー「昇進のチャンスを掴んだと思ったらゴールが遠くなる」

そりゃいじけたくなるよねって話ですよ。

「就業規則の補足に載ってあるわよ!ここで働きたいなら規則に従いなさい」ってそれあなた!

補足規則って!補足って!!ちょっとちょっと!!!

急に付け足したんじゃないでしょうねー!って思っちゃったもん。疑心暗鬼ですよ、私。

その週末、メアリー、ドロシー、キャサリンはドロシーの家で集まります。

その時の会話がこちら。

メ「白人だけの大学で黒人の私が講座を受けられるわけないじゃない」

ド「おそらくそうでしょうね」

メ「言うことはそれだけ?」

ド「一日中愚痴聞かされている方の身にもなってよ。トランプやりにきたんでしょ。裁判所に請願書を出せばいいじゃない」

メ「愚痴ってた?」

キャ「何日も」

この会話のやりとり、ドロシーのセリフは半分諦めからの投げやりな言葉にも思えるのですが、問題解決型コミュニケーションのお手本のようだとも思いました。

  • 不快感の残るコミュニケーションを繰り返さない(愚痴はもう聞かないよと意思表示)
  • 現状を改善するための最適な行動を提示(裁判所に請願書を出す)

そしてこの後、実際にメアリーは裁判所に請願書を提出します。

その判事とのやりとりのシーンもカッコいいんですよね!!名場面だと思います!!!

これでもし、このあともメアリーがウジウジと悩み続けたりだとか、ヒーロー的な男性が登場して彼女(達)を助けてくれる!的な展開になっていたとしたら、この映画は一気にサムいものになっていたと思います。

彼女たちの言葉にもパワーはなくなったでしょう。

でも、そうではなかった。

解決のための行動を選んでいるんですよね。今、ここで、自分ができる最適解を常に選び続けているんです。そういう生き方をしている人物としてきちんと描かれているから、言葉がリアルに感じられるんですよね。

そう考えると、こういった日常のちょっとしたシーンって大事なんですね。

彼女たちはポジティブでパワフルです。

『なんとかなるさ!』と無責任に未来を夢想するとか、本当は辛いのに笑って明るく誤魔化すとか、問題を起こさないように無難に過ごして周りの助けを待つとかそういうことではなく!

自分たちから問題提起し、解決のための行動を起こしています。

「どうしたら現状を変えることができるだろうか」「自分はどうしたらいいのか」

非生産的なことに時間を費やさず、自分にとって有意義なことに時間を使っています。解決したいことがあるのなら、解決することにエネルギーを注いでいます。

そういったストーリーが丁寧に描かれているからこそ、彼女たちのセリフが響くんですよね。ふぅーしびれる!

宇宙飛行士のジョン・グレン。カッコいいし、フレンドリーだし、ユーモアあるし、プロフェッショナルだし最高!!

ABOUT ME
三上みひろ
これから書きます