大人の教養-バレエ・絵画・映画

【辛口評価】ハリエットは史実を薄味ストーリーにし、偉人がひたすら走っている映画になってしまった 

辛口レビューです。

否定的な表現が多く含まれるので、苦手な方は読まないことをおすすめします。

ハリエットのあらすじ

1849年アメリカ、メリーランド州。ブローダス農場の奴隷ミンティ(シンシア・エリヴォ)は、幼いころから過酷な労働を強いられていた。 そんな彼女の願いはただ1つ、いつの日か自由の身になって家族と共に人間らしい生活を送ること。 ある日、借金の返済に迫られた農場主がミンティを売りに出す。 遠く離れた南部に売り飛ばされたら、もう二度と家族には会えず、お互いの消息すらわからなくなってしまう。 脱走を決意したミンティは、奴隷制が廃止されたペンシルバニア州を目指してたった1人で旅立つのだったー。

Filmarks 映画

主人公のハリエット・タブマンは実在した人物で、『WOMAN女性たちの世界史大図鑑』でも人物伝で取り上げられている奴隷解放運動家であり、女性解放運動家でもあります。

映画では”運動家”というよりも、”地下鉄道”の”車掌”として、神のお告げをきいてスピリチュアルパワーを発揮、偉業を成し遂げた超人女性として描かれています。←皮肉です。

三上みひろ

”地下鉄道”というのは奴隷を自由州(南北戦争までのアメリカにおいて奴隷制度を禁止した州)に逃す秘密ルートの呼び名です。

ハリエットの感想

扱っているテーマは歴史的にも社会的にもとても重要なものですし、この映画でハリエットの活躍を知った方も多いと思うので、そういう意味でとてもいい映画だと思います。

映画をきっかけに、奴隷制度や差別、人権について考えることってありますもんね。

ただ…映画の作品を観た感想は

「大昔の神話がテーマだっけ…?」

頭の中が?????でいっぱいです。

ハリエットは大勢の奴隷を解放しながらも誰も死なせることなく、彼女自身も捕まらず、失敗知らずの”車掌”で神がかり的な仕事だったのかもしれませんが、それが本当に神頼みな物語になっていたのが残念です。

ストーリがあまりにもトントン拍子にすすむものだから、「奴隷の逃亡ってちょろかったんじゃないの?」と錯覚してしまいそうです。緊迫感がゼロ。

もちろん実際の歴史がぬるーい感じだったのであればそれに越したことはないと思いますが、実際は悲惨だったわけですよね。逃亡だって命懸けのギリギリのギリギリで。

それなのに映画ではラッキーの連続、神のお導きでなんか逃亡できちゃったー!な感じになっているんですよね。

例えば、ハリエットが”車掌”として奴隷主のところへ戻るシーン(ちなみに初めてのミッション!)で

ウィリアム・スティル

逃亡の手助けにはスキルと綿密な計画が必要なんだ!(だからちょっと待て)

私(うんうんそうだよね。ハリエット、ノープランで行くのは危険すぎるよ。計画は大事だよ。さて、ここから盛り上がるのかー!!)

ハリエット

そんなの待ってられない!大丈夫、私には神の御加護があるから!

私(え…?もし失敗すれば、これまで築き上げてきた地下鉄道が危険に晒されるのに、大胆すぎやしませんか?もしかして有能なサポート役とこれから出会ったりするのかな?それなら納得!)

と飛び出し、奴隷州にある奴隷主のところへ戻り、大きなトラブルもなく仲間の奴隷の逃亡を手助けして、無事に戻ってくるという。

神の御加護によりトラブルは事前に察知することができ、危険をすべて回避できてしまうのです。

\なんじゃそりゃー!/

私はスピリチュアル的な能力、不思議な力は存在すると思っています。

だとしても、自分の決断で多くの人の命が左右されるとなれば「本当にこれでいいのか?」と迷ったりしそうなものじゃないですか。しかし、ハリエットはいっさいの迷いなし。

もし「神に選ばれし救世主ハリエット」感を押しだす映画にするのであれば、神の声をきくシーンを神秘的にする等の工夫が欲しいなとも思いました。金色の光がみえるとか、そういったわかりやすい演出があってもいいのでは。

神の声をきくシーンが突然目の前が白黒になってぶっ倒れる感じなので、最初、熱中症なのかと思いました…。

また私は奴隷制、人種差別関連の映画をよく観るのですが、だいたいの映画がバイオレンスたっぷりです。暴力的なシーンが苦手なので、目を両手で覆いながらチラチラ観るように鑑賞する作品も多いです。

しかし、映画『ハリエット』には暴力的なシーンがほぼありません。

暴力的なシーンがないことが悪いわけではありませんが、そのせいでハリエットのセリフに重みがなくなっていると思いました。

こちらはハリエットの演説の一部。おそらくこの作品の中で重要なセリフだと思います。

奴隷制を肌で知らないんでしょう

自由に生まれた人

苦労を忘れてしまった人

何不自由なく暮らし、大事にされる人

家も妻も綺麗なら無理もない

私は覚えている

まだ働く意味を知る前に働かないと殴られる子供達

初潮の前に犯される少女たち

兄弟は背中がムチでズタズタ

姉妹は赤ん坊と引き離される

おぞましいほどの苦しみ

今、この瞬間もそんな目にあっている

映画「ハリエット」

このセリフを聞いて、胸がグッとなり、こみ上げてくるものがありました。

というのも、私はこの作品を鑑賞する前に『それでも夜は明ける』という奴隷制をテーマに扱った別の映画を観ていたからです。

そちらの作品の中で奴隷制度がいかに非人道的で悲惨で地獄かということを「これでもかっっっ!!!!!」というくらいみせられました。

理由のない体罰、主人から少女へのレイプ、それに嫉妬する女主人からの暴力、監督官に脅されながらの労働、粗末な食事に不衛生な住環境、逃亡に失敗した奴隷は殺される。

奴隷は家畜扱いだったことがよくわかる描写がたくさんありました。

ハリエット「奴隷制を肌で知らないんでしょう」

はまさにその通りで、視聴者のほとんどは奴隷制を肌で知りません。

ハリエットのセリフを聞きながら、別の映画のシーンを思い出して胸がグッとなる…。これはこの映画の欠陥だと思うんですよね。冒頭で奴隷制の悲惨さをしっかりとかけば、よりハリエットの言葉に重みがでたはずです。

ただすごく好意的に「暴力的なシーンをあえてかかなかった」とみるとしたら、そのおかげでレーティングが『G』、つまりは全年齢が視聴対象になっており、広く認知してもらえるというところでしょうか。

子供と一緒に奴隷制についてや人権について考えたい、そんなときにはぴったりの映画だと思います。

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三上みひろ
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