大人の教養-バレエ・絵画・映画

世界で一番ゴッホを描いた男は涙なしにはみられない良作

こんにちは。

三上みひろです!

映画「世界で一番ゴッホを描いた男」をAmazonプライムで視聴しました。

ドキュメンタリー作品ですが、最初”ドキュメンタリー風のフィクション”かと思いました。それくらいドラマティックだし、観るものに考えさせるものがあります。

いい作品でした。84分と短めの作品なので、平日の夜にもおすすめ!

※ここから先、ネタバレあります※

世界で一番ゴッホを描いた男 あらすじ

中国・深セン市近郊の町でフィンセント・ファン・ゴッホの複製画を描き続けている男が「本物のゴッホの絵を見る」という夢を実現するため、アムステルダムを訪れるまでを描いたドキュメンタリー。

中国・深セン市近郊にある「大芬(ダーフェン)油画村」。ここでは世界の有名画家の複製画制作が産業として根付いており、世界市場の6割ものレプリカがこの地で制作されていると言われている。

出稼ぎでこの町に来たチャオ・シャオヨンは独学で油絵を学び、ゴッホの複製画を20年間も描き続けている。

そんなシャオヨンは、いつからか本物のゴッホの絵画を見たいという夢を抱いていた。ゴッホが実際に描いた絵を自身の目で見てゴッホの心に触れ、何か気づきを得たいという思いは日増しに強くなり、その夢を実現するため、シャオヨンはゴッホ美術館があるアムステルダムの地を訪れるのだが……。

引用:映画.COM

上半身裸の男性やアムステルダムの街中でタバコを吸うシーン、飲みすぎてはしゃいで嘔吐するシーンがあるのでそれらの表現が苦手な方は注意してください。

暴力シーンなどはありません。

世界で一番ゴッホを描いた男 感想

(C)Century Image Media (China)

死にはしないほどにそこそこ貧しい。

これが一番しんどいということがよくわかる映画。

家族全員で頑張って必死で働けば、なんとか最低限度の生活はできる。

しかし生活はギリギリだからどんなに安い請負価格でも断ったり、価格の交渉したりする余裕はない。

今の自分の生活を変えたいと心の底では思いつつも、生活できているが故に決断もできない。家族もいる。多くを望まなければなんとか生きていけるのだ。

現実の生活は変えられないから、自分のなかの自分のイメージを美化するしかない。

そうやって満足するよう自分に言い聞かせる…。それも無自覚に。

観ていて震えた。

映画の内容は

前半
貧しい複製絵画職人がアムステルダムのゴッホ美術館に行くという夢を叶えるストーリー。

転換点
アムステルダムに到着すると、そこには自分の絵が置かれていた。しかし、そこはなんと”お土産物屋”だった。

彼の制作した複製絵画は画廊で作品として扱われているのではない。お土産屋で商品のひとつとして売られていたのだ。その事実に主人公はショックを受ける。

(本人は高級な画廊に”作品”を納めているつもりだった。)

後半
「絵を描く人間」として、自分の存在を問い直すストーリー。

ゴッホの絵を観にくのは前半のテーマだけど、この映画の本当におもしろいのは後半。

敵がいるわけでもないし(売値の10分の1の買い取り価格だとしても、それが本当に”買い叩き”で”悪”なのか、私にはわからなかった)、誰かが死ぬとか、困難を克服して勝利を掴むとか、そういったわかりやすい感動シーンがあるわけではない。

でも、とにかく泣ける。

前半のシーンで、私、かなりドン引きしたシーンがありまして。

主人公が職場の仲間とお酒を飲んでいるときに、仲間のひとりが息子がアルバイトについて話題にします。

それが14時間働いて70元(1190円)らしい。

時給じゃなく、日給だよ!!!!?

それに対して、その子の父親が

「俺たちの頃とは時代が違うが、息子には最底辺を経験させたい。でないと、金を手に入れる苦労はわからん。」

というシーンがあって…。

私、言葉を失っちゃったよね。

周りも、そりゃ仲間に「あなた、それは間違ってるよ!」なんて口出しできないかもしれないけど、「そうだよな」「うんうん」みたいな雰囲気なんですよね。

うんうんじゃないよ( ; ; )

お金をえる苦労を学ぶためにアルバイトするのか?違うじゃん。お金を得るためにアルバイトするんでしょ。

その結果、なんらかの苦労だとか挫折があったとして「お金をもらうって大変だなー」と思うことはあったとしてもさ!

お金をもらうのは大変なことだからわざわざ大変なことを体験させて、辞めたいって言ってるのに辞めさせないっておかしいでしょ。やばい。

…というシーンが前半にあってですね、私は結構ドン引きだったんです。

それが後半、こんなことが起こります!

仕事の仲間とお酒を飲んでいて(この映画はお酒を飲むシーンがあります!笑)、主人公が自分の「絵を描く人間」としての迷いを吐露します。

  • 数年間、何万枚もゴッホを描いてきたけど、自分のオリジナルは1枚もない
  • しょせんは(複製絵画)職人だ。画家や芸術家にはなりえないのか?

それを仲間は、まあ…なんというか…うやむやにします。

しかも主人公が受け入れやすいように「職人、画家、芸術家。どれも単なる言葉だ。大切なのは自分が自分をどう認識しているかの違いだけだ」なんていう美しい言葉を使って。

オリジナル作品を作っている人と、複製職人だと全然違うだろ…と思うんですが^^;

コピー品のゴールは”より本物に似せること”で、存在する正解に近くなるように目指していくこと。オリジナルを描くことは、自分の中にあるものを自分なりの方法で表現すること。

そもそもオリジナル作品じゃないと自分のサインさえ残せない。自分が制作品したものを作品として評価してもらう、そのスタートラインにも立てない。

どっちの職業が上下という話ではなく、全然違うということです。

職人と画家、絵を描くという同じ仕事でも、本質が異なるのだからの望みとズレていたら苦しくなるのは当然です。

もちろん仲間に悪気はありません。ただ挑戦を応援できるだけの経験値がなければ、「大丈夫!それやってみなよ!」なんていえないだけだと思います。

しかし、ここで再び転換点があります。

同席していた女性(義弟の妹?)が「私、実は写実をやってみたいと思っているんです。でも、ゴッホみたいな悲惨の最後になるのが怖くて…。」と今まで誰にもいっていなかったであろう、自分の夢を話します。

それに対して主人公が「自分の思うには道を進みなさい」っていうんですよね。

たった今、自分の夢を抑え込んだその口で、他人の夢を応援するんです。

どんな気持ちでこの言葉を口にしたんだろう…と最初思ったんですが、その後、主人公はオリジナル作品の制作を決心します。

自分の言葉に自分が励まされたんでしょう。

このシーンが泣けるんですよね。

主人公も、その女性も泣きます。

ふたりとも自分の本音に気がついて、それを口に出したから涙が溢れだして来ちゃったんでしょうね。私も泣きました。

「家族がいるから」「お金が必要だから」「男だから」

そうやって自分を抑えていても、本当はもう抑え切れないくらい自分の想いが溢れ出しそうで、でも認めてしまうと何かを失いそうで。

それでも止められないほどの気持ちがいっぱいになって、ついに溢れ出してしまったんだろうな…と想像すると

(;ω;)

この時の彼は、前半の彼とは別人です。

自分の選択にないものは、他人に(自分に近しい人であればあるほど)勧めることなんて出来やしませんからね。

さて、冒頭に

死にはしないほどにそこそこ貧しい。

これが一番しんどい。

と書きましたが、もしアムステルダムに行くことがなければ現実を直視することもなかったでしょう。

そうなれば「安月給だけど自分は画廊に絵をおさめている芸術家だ!」と自分を美化し、ずーっとこのままだったかもしれません。

現状を変えていくには「ショック」が必要で。でも、ショックを受けてほしくないから(正確にいうと自分が困るから)、人は自分にも他人にもショックを受けないようにしてしまうけど、それを避けることが本当に自分のため本人のためになるのか?

それを考えさせられる映画でした。

かなりおすすめです。

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